本を読み終えたあと、心があたたかいのに、どこかしずかな寂しさが残ることがある。
ハッピーエンドのはずなのに、胸の奥がきゅっとして、現実の空気が少しだけ遠く感じる。
ページを閉じて、深呼吸をひとつ。
その瞬間に、物語の中にいた自分が、そっと現実に戻っていくのを感じる。
心が動いた証としての静けさ
きっとこれは、心が本気で動いた証なのだと思う。
登場人物と一緒に笑い、涙し、願った時間が確かにそこにあった。
物語を読むというのは、心の奥にある何かをそっと撫でる行為に似ている。
感情が動くほどに、読み終えたあとの静けさは深くなる。
あの静けさには、少しの空白と、やさしい余韻がある。
「この物語が終わってしまうのがさびしい」
「でも、彼らが幸せでよかった」
そんな相反する気持ちが胸の中で溶け合って、
やわらかな沈黙だけが残る。
私はそんな時間が、少し好きだ。
心が静かになっていく過程を感じると、
自分が“ちゃんと生きている”ような気がする。
沈んだ心をやさしく整える
沈んだ気持ちのまま、すぐに次の本を手に取ることもあるけれど、
最近は少しだけ間を空けるようにしている。
お湯をわかして、カップに注ぎ、好きな香りをひと滴たらす。
ラベンダーのやわらかな香りが部屋に広がって、
心の奥に残った“物語の余韻”を少しずつ溶かしてくれる。
それから、小さなノートを開いて、
感じたことを一行だけ書く。
「この物語があってよかった」と。
それだけで、沈んだ気持ちは少しずつ温もりに変わっていく。
静けさを抱きしめるということ
幸せな物語のあとに訪れる静けさは、
きっと“心がちゃんと感じ取った証拠”なのだと思う。
誰かの想いを受け取って、自分の中に灯をともした証。
その静けさを否定せず、ゆっくり抱きしめる。
今日もまた、心が動いたことに、
そっとありがとうを伝えたい。